成年後見人とは?任意後見と法定後見の違い・デメリット・費用について
2022/07/25
成年後見制度とは簡単に言うと、高齢者や、認知症などを患い判断能力を失ってしまった人、その他様々な理由から判断能力が十分ではない人の「財産を守るための制度」です。
高齢化が進む現代の日本では、認知症などの病気のリスクは他人ごとではありません。また、核家族の増加など家族の形も多様化する中で、いざと言う時に頼れる身内が近くにいない、というケースも珍しくありません。
たとえ近くに住んでいたとしても、子どもや親族に余計な負担をかけたくないと言う方も多いのではないでしょうか。様々な状況から、成年後見制度の重要性は近年ますます高まっています。
この記事では、成年後見制度についての基本知識を始め、活用するための手続きや流れについて詳しくご紹介していきます。
一見難しそうに思える制度ですが、上手に活用できればいざと言う時にも安心です。自身や家族の老後のためにも、成年後見制度について理解を深めておきましょう。
目 次
成年後見人・成年後見制度とは?
現在の成年後見制度は、2000年4月から介護保険制度と一緒に始まりました。簡単に言うと、高齢者や、認知症などを患い判断能力を失ってしまった人、知的障害や精神障害など、様々な理由から判断能力が十分ではない人の「財産を守るための制度」です。
この制度に基づいて選任される「保護者」のことを成年後見人(※正式には「成年後見人等」)と呼びます。また、成年後見人の保護を受ける人を「被成年後見人」と呼びます。
判断能力が十分ではない人は詐欺や悪徳商法、脅迫の標的にされやすく、悪意を持った人たちにより財産を奪われてしまう危険が高くなります。そのため、成年後見人は判断能力が十分ではない人の代わりに、財産管理などの支援を行います。
具体的には、金融機関での手続き、所有不動産の維持管理、遺産分割の協議、介護保険、障害福祉サービス、施設入所の契約などが挙げられます。成年後見人は法律行為を行うのが本来の役割となり、介護などの行為は行いません。
成年後見人になれる人・なれない人について
多くの場合、成年後見人には親族や弁護士などが選任されます。特別な資格はいりませんが、誰でもなれると言うわけではありません。成年後見人になれる人・なれない人について以下にて詳しくご紹介していきます。
成年後見人になれる人
本人から委任された場合、親族や友人などを含め、原則として「成人」であれば誰でも成年後見人(又は保佐人、補助人、任意後見人等)になることが可能です。以前は親族が成年後見人になるのが一般的でしたが、現在では約7割のケースで、弁護士、司法書士、社会福祉士などの「専門職」が成年後見人に選任されています。
専門職が成年後見人に選任されるようになった背景として、成年後見人である親族による財産の使い込みなどの「トラブルが多い」という原因が挙げられます。特に多額の財産を所有している場合や、親族間で意見の相違がある場合はトラブルに発展しやすいため、弁護士などの専門職に任せる傾向にあります。
ニュース報道などでは、時折弁護士による財産の使い込みなどが話題になりますが、実際には親族間のトラブルの方がはるかに多いという現実があります。
(2)成年後見人になれない人
原則として「成人」であれば誰でもなることができる成年後見人ですが、例外もあります。
具体的には、「自己の財産管理権を喪失している人」「不正行為や非道徳的な行為により、過去に家庭裁判所から解任されたことがある人」「被成年後見人である本人と利益相反の関係にある人」などが挙げられます。
つまり、権利擁護が目的である成年後見人として、適切な職務遂行を期待できないとみなされる場合は、成年後見人になることができません。
「任意後見制度」と「法定後見制度」の違いについて
成年後見人制度は、「任意後見制度」と「法定後見制度」に分けられます。ここでは、それぞれの違いについて説明していきます。
任意後見制度とは
任意後見制度とは、本人が「事前」に後見人を決めておく制度のことを指します。判断力が不十分になる前に後見人を指名し、予め任意後見契約を結ぶことになります。任意後見の場合、本人の判断力が不十分になったタイミングで効力が発生します。
法定後見制度とは
法定後見制度とは、本人の判断能力が十分ではなくなった際、家庭裁判所が後見人を選任する制度のことを指します。法定後見の場合、家庭裁判所の申立後、審判が確定したタイミングで効力が発生します。
また法定後見は、本人(被成年後見人)の判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれ、これらをまとめて成年後見人と呼びます。被成年後見人の判断能力の程度が不十分であるほど、成年後見人の権限は大きくなります。
成年後見制度のデメリット・利用する際の注意点について
成年後見制度を利用する際には、デメリットについてもしっかり理解しておく必要があります。制度を適切に利用するためにも、事前に関係者全員でよく話し合い確認しておきましょう。ここでは、成年後見制度のデメリットや、利用する際の注意点についてまとめています。
「任意後見制度」と「法定後見制度」共通のデメリット・注意点について
「任意後見制度」と「法定後見制度」に共通するデメリットは、制度を利用することによって、被成年後見人である本人の財産を自由に使えなくなるという点です。これにより、不動産や株式投資などの資産運用、生命保険の加入、生前贈与、相続税対策などができなくなります。
成年後見制度の目的は、あくまでも財産を「維持・管理すること」にあり、リスクをともなう資産活用は本来の目的に沿わないとされているためです。
また、どちらの場合も書類作成や申し立ての際の費用がかかります。弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合は、その費用として10万円〜30万円程度が相場となります。さらに、後見人に対しての報酬がかかるという点にも注意が必要です。
家族や親族などの身内を後見人とする場合、無報酬や安価とすることも可能ですが、少なくとも事務負担金はかかってしまうということを覚えておきましょう。費用面に関する詳しい内容は後の項目でも詳しくご紹介しています。
「任意後見制度」のデメリット・注意点について
任意後見制度の主なデメリットは下記の通りになります。
・判断能力が十分なまま亡くなった場合は契約が使われることはない。
・任意後見契約の効力が発生した後に解除したい場合は、家庭裁判所の許可を得る必要がある。
・後見業務開始の際に任意後見監督人を選任する必要があり、任意後見監督人の報酬が発生する。
・任意後見人に取消権がなく、詐欺や悪徳商法の被害にあった場合は、消費者契約法や民法などに基づいて対応を図らなければならない。
「法定後見制度」のデメリット・注意点について
法定後見制度の主なデメリットは下記の通りになります。
・申立て後、後見人が選任されるまでに時間がかかる(半年程)かかることがある。
・後見人として家族を希望しても認めてもらえないことがあり、家庭裁判所の判断で専門職が選任される場合がある。また、家族が後見人に選任された場合でも、その監督人として専門職が選任されることがある。
・後見人が選任された後は、後見人に問題があるなど特別な理由が無い限り変更や解任が難しい。後見人の選任後は、原則として本人が亡くなるまで後見業務が続き、費用が発生する。
・本人や家族にとって必要だと考えられる出費が、後見人の判断によっては認められない可能性がある。特に生計を同一にしている夫婦や家族の場合は注意が必要です。
成年後見人を選ぶための手続きについて
ここでは、成年後見人を選ぶための手続きについて「任意後見制度」と「法定後見制度」それぞれの手順を説明していきます。
任意後見人を選ぶための手続きについて
任意後見制度の場合、判断力が不十分になる前に後見人を指名し、予め任意後見契約を結ぶことになります。まずは任意後見人に任せたい仕事の範囲を定め、公証人が本人と将来の後見人両者と面談をし契約締結の意思確認を行います。
その後、公正証書により「任意後見契約書」を作成して契約締結となります。この任意後見契約書には、任意後見人の仕事内容を記載した「代理権目録」が添付されます。
その後、本人の判断能力が不十分になった際には本人の同意を得た上で、家庭裁判所にて、「任意後見監督人」を選任するための手続きを行います。「任意後見監督人」は、任意後見人を監督する役割を担います。
一般的にはこの任意後見監督人に、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が選任されます。客観的視点を持ち透明性を保つため、任意後見受任者(任意後見人となる予定の人)本人や近しい関係の人(配偶者や家族)を選ぶことはできません。
任意後見監督人が選任された後、任意後見受任者は正式な任意後見人となり、任意後見契約書に基づいた内容の仕事を担うことになります。任意後見制度の場合、契約の効力は契約締結時ではなく、この任意後見監督人が選任されたタイミングで発生します。
また、任意後見人の責務は基本的に本人が亡くなるまで続き、亡くなった後は預かっていた財産などを整理した上で相続人などに引き渡しを行います。
法定後見人を選ぶための手続きについて
法定後見制度の場合、認知症などによって本人(被成年後見人)の判断能力が十分ではなくなった際、家庭裁判所の審判によって法定後見人が選任され開始されます。
制度を利用する際は、まず本人の住所地の家庭裁判所に対し、後見開始の審判の申立てを行います。申立人は、本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、身寄りがない場合は市区町村長などになります。申立ての際は、家庭裁判所に関連書類や資料などを提出した後、面接などを含めた審査が行われます。本人の状態を判断するため、専門医による精神鑑定が行われる場合もあります。
法定後見人は、申立人が希望する人が選ばれるとは限りません。家庭裁判所の判断で弁護士などの専門家が選任される場合があり、家族などが後見人に選任された場合でも、必要に応じて後見監督人が選任されることがあります。
また、本人の判断能力の程度によって法定後見人の権限は異なり、家庭裁判所の判断により「後見人」「保佐人」「補助人」のいずれかに定められます。法定後見制度では、後見人に対し、本人の代理で契約を行うことのできる「全面的代理権」、本人が判断能力が不十分な状態で結んだ契約を取り消すことのできる「取消権」が与えられます。
判断能力の程度を鑑みて本人の意思を尊重できるよう、保佐人と補助人に与えられる代理権や同意権・取消権には制限があります。
法定後見人は、家庭裁判所から与えられた権限の範囲で、本人に代わって財産管理や生活に必要な契約、手続きなどの仕事を行います。 法定後見人の責務は任意後見人と同様、基本的に本人が亡くなるまで続き、亡くなった後は預かっていた財産などを整理した上で相続人などに引き渡しを行います。
成年後見人を利用する際の費用について
成年後見制度を利用するためには、さまざまな費用がかかります。ここでは、「任意後見制度」と「法定後見制度」それぞれの場合にかかる主な費用についてまとめています。制度利用前にしっかりと把握しておきましょう。
「任意後見制度」に関わる主な費用について
「任意後見制度」を利用する場合の主な費用は下記の通りとなります。
・専門家に契約書作成などを依頼する場合はその費用:10万円~30万円程度
・公証役場の基本手数料:11,000円
・法務局への登記嘱託手数料:1,400円
・法務局に納付する収入印紙代:2,600円
・戸籍謄本、住民票、印鑑登録証明書の発行費用:1通につき数百円〜
その他、場合によっては記載のもの以外にも費用がかかることがあります。
任意後見人・任意後見監督人の報酬について
任意後見人に対する報酬は、本人(被成年後見人)の財産から支払いますが、任意後見制度の場合、後見人の報酬は必須ではありません。家族などの近しい関係の方が選任される場合は、無報酬のケースも多くあります。
報酬額については契約を結ぶ際に定めます。弁護士や司法書士など、専門職の後見人に対する報酬の目安は、月額3万円〜7万円程度となります。
また、前述の通り、任意後見制度の場合には必ず任意後見監督人が選任されますが、任意後見監督人の報酬も本人の財産から支払うことになります。報酬は本人の財産額が基準となっており、金額の目安は下記の通りとなります。
管理財産額5,000万円以下:月額5,000円〜2万円
管理財産額5,000万円以上:月額2万5,000円〜3万円
「法定後見制度」に関わる主な費用について
「法定後見制度」を利用する場合の主な費用は下記の通りとなります。
【申立てに関わる主な費用】
・申立手続きを弁専門家に依頼する場合はその費用:10万円~30万円程度
・申立手数料:800円
・後見登記手数料:2,600円
・連絡用郵便切手代:3,000円~5,000円程度
・医師による鑑定料:10万円~20万円程度(かからない場合もあります)
・戸籍謄本や診断書などの発行費用:1通につき数百円〜
その他、場合によっては記載のもの以外にも費用がかかることがあります。また、管轄の家庭裁判所によって、必要書類が異なる場合があります。
法定後見人・法定後見監督人の報酬について
法定後見人に対する報酬は、本人(被成年後見人)の財産から支払います。報酬は本人の財産額が基準となっており、家庭裁判所が公表している法定後見人の基本報酬の目安は下記の通りとなっています。
管理財産額1,000万円以下;月額2万円
管理財産額1,000万円~5,000万円:月額3万円~4万円
管理財産額5,000万円以上:月額5万円~6万円
また、法定後見制度でも後見監督人が選任されるケースがあり、その際の報酬額の目安は下記の通りとなります。
管理財産額5,000万円以下:月額5,000円〜2万円
管理財産額5,000万円以上:月額2万5,000円〜3万円
まとめ
判断能力が十分ではない人の「財産を守るため」に作られた成年後見制度。中でも、後見人を事前に自分で選ぶ「任意後見制度」と、家庭裁判所の審判によって決定される「法定後見制度」の2つに分けられ、手続きの方法や費用、後見人の権限など両者にはさまざまな違いがあります。成年後見制度を適切に活用するためには、それぞれのメリットやデメリットをしっかり理解しておく必要があります。自身やご家族のいざという時に備え、成年後見制度について頭に入れておきましょう。

記事監修者
小野税理士事務所代表の小野 聰司。
平成21年の12月に小野税理士事務所を開設し、多くのお客様のサポートをしている。