入院・手術時に身元保証人は必要?役割や保証人がいない場合の対応策について

2022/07/31

入院や手術時には、病院から「身元保証人」の提示を求められるケースが多くあります。身元保証人には、患者本人が治療費の支払いを滞った際の支払いや、患者の意思疎通が難しい場合の医療処置や介護方針に関しての判断など、さまざまな責任が課せられます。

そのため、家族や親しい間柄以外の方には気軽に頼みにくいという現実があります。また、家族であったとしても、遠くに住んでいたり親密な関係ではないなど、頼むことができないというケースも多くあります。

では、身元保証人を頼める人がいない場合はどうしたら良いのでしょうか。この記事では、入院・手術時の身元保証人の役割や、身元保証人を頼める人がいない場合の対応策などについてご紹介していきます。

入院・手術時の「身元保証人(身元引受人)」とは?

入院や手術時には、病院から「身元保証人」の提示を求められることがありますが、この身元保証人という制度は、法律で定められた制度ではありません。

そのため、どこまでの範囲が身元保証人の役割であるかは、病院や施設によっても異なります。一般的には、患者本人が治療費の支払いを滞った際の支払いや、患者の意思疎通が難しい場合の医療処置や介護方針に関しての判断、もしもの際に身柄を引き受ける役割などが求められます。

身元保証人を頼む際や引き受ける際には、誓約書に記載の内容をしっかりと確認する必要があります。場合によっては大きな責任を負うことになりますので「誓約書に書くだけだから」と、勝手に人の名前を書くことは避けましょう。

「身元保証人(身元引受人)」と「連帯保証人」の違いについて

「身元保証人」と混合しやすいのが「連帯保証人」です。両者を明確に区別していない病院や施設もありますが、正確には役割に違いがあります。

「連帯保証人」は契約により、本人の契約上の一切の義務に責任を持つことになります。一方の「身元保証人」は、本人の契約上の一切の義務に責任をもつ他、事実上の行為にも責任を持つ必要があります。

身元保証人に求められる役割については、次の項目で詳しくご紹介しています。

「身元保証人(身元引受人)」に求められる役割について

ここでは入院・手術時の「身元保証人」に求められる、一般的な役割についてご紹介していきます。ただし、前述の通り身元保証人に何を求めるのか、病院や施設によってもその範囲が異なります。身元保証人を頼む際や引き受ける際は、提示された誓約書の内容をしっかりと確かめましょう。

治療説明を一緒に受ける

身元保証人は、入院や手術に関する治療説明を患者と一緒に受ける場合があります。第三者である身元保証人にも聞いてもらうことで、患者本人や身近な人の不安を軽減し、より治療への理解を深める狙いがあります。

医療処置や介護方針に関しての判断

身元保証人は入院・手術前の治療説明を受けるだけでなく、治療過程での説明や、病院からの治療方針についての相談を受けることもあります。

特に患者本人が高齢であったり、認知症などを患っているなどの理由で、十分な判断力がない、又は意思疎通が難しい場合は、身元保証人に医療処置や介護方針に関しての判断を求められる場合があります。

入院に必要な準備を行う

入院時には、多くの事前準備が必要になります。具体的には、保険関係の手続き、生活品などの持ち物の用意などが挙げられます。

患者本人が準備を行える状態であれば問題ないのですが、高齢であったり、病気や怪我で身動きが取れないケースも多いかと思います。入院に必要な準備を行える方がいない場合、身元保証人は必要書類や生活品などの持ち物の用意を依頼されることがあります。

治療トラブルや急な容態変化など想定外の事態への対応

入院中や手術時は、治療トラブルや急な容態変化などの想定外の事態も起こりえます。身元保証人は、緊急連絡先としてそのような事態に対応するケースもあります。例えば、患者との意思疎通が難しい場合は、病院側が独断で治療を進めることになり、さまざまなリスクが懸念されます。後のトラブルを防ぐためにも、緊急時に患者本人に代わって身元保証人が治療方針の説明や相談などを受けることがあります。

患者本人が入院・治療費用を払えなかった時の支払い

患者本人が入院・治療費用を払えなかった場合、身元保証人に支払いの義務が発生する場合があります。後のトラブルを避けるためにも、誓約書の「支払い義務」についての記載は特にしっかりと確認しておきましょう。

また、病院や施設によっては、身元保証人とは別に「連帯保証人」の提示を求め、未払い金については連帯保証人に支払いを求めるケースもあります。

亡くなった際に身柄を引き取る

患者が亡くなった場合、身元保証人は身柄を引き取る役割もあります。身寄りのない方の場合は、身元保証人が家族に代わって、逝去後の事務手続きや葬儀の準備などを担うケースもあります。保証人を依頼する側も引き受ける側も、万が一に備えて保証人に求められる役割についてしっかりと理解しておく必要があります。

身元保証人(身元引受人)には誰がなる?身元保証人の条件について

身元保証人になるための条件は、病院や施設によっても異なります。経済力などの条件を求めず、成年者であれば良いとしているケースも多くあります。同居の家族がいる場合は、一番身近な、配偶者、子、親などが身元保証人になるのが一般的です。

ただし、入院・治療費用の支払い義務が発生する場合には「支払い能力を有する成年者であること」を条件とされる場合もあります。また、生計を別にしている「別居家族」を条件としている場合もあります。身元保証人を頼める人がいない場合の対応策については、次の項目で詳しくご紹介しています。

入院・手術時に身元保証人(身元引受人)がいない場合はどうすれば良い?

ここでは「身内は高齢の配偶者しかいない」「子どもに迷惑をかけたくない、もしくは疎遠になっている」「親族が遠方に住んでいるため頼れない」など、さまざまな理由で入院や手術時に身元保証人を頼める人がいない場合の対応策について、解説していきます。

身元保証人以外の選択肢がないか医療機関に確認する

治療費や入院費などについては「連帯保証人」を求められるケースがありますが、医療機関によっては、連帯保証人の提示が困難な患者に対して以下のような方法を用意しているケースがあります。まずは、医療機関に連帯保証人以外の選択肢がないかを確認してみましょう。

入院預り金(入院保証金)を納める

入院預り金は、入院時に病院から提示された「預り金」を納め、退院時に差額を精算するという方法です。これにより病院側は入院費の未払いを事前に防ぐことができるため、連帯保証人の提示が不要となります。

クレジットカード番号を登録する

クレジットカードでの入院費精算が可能な医療機関の場合、病院にカード番号を登録すれば連帯保証人が不要となるケースがあります。クレジットカード払いが可能であれば、まとまった現金をすぐに用意するのが難しい場合にも安心です。

保証会社を利用する

医療機関によっては「提携している民間の保証会社を利用する」という方法もあります。連帯保証人の提示が難しい場合、所定の保証料を納めることで一定額までの債務を保証してもらえます。

域包括支援センターや自治体の支援窓口に相談する

身元保証人を頼める人や、身近に頼れる人がいない場合は「地域包括支援センター」や「自治体の支援窓口」に相談するという方法があります。

地域包括支援センターは、住民の健康維持や生活の安定のために、医療や福祉に関する援助・支援を担っている機関です。また、市区町村で独自の相談窓口を開設している場合もあります。お住まいの市区町村のホームページなどから問い合わせてみましょう。

成年後見制度を利用する

成年後見制度とは、「判断能力が十分ではない方」を支援・保護するための制度です。加齢や認知症などで判断能力が十分ではない場合、財産の管理や、入院・介護サービスを利用するための手続きなどを自身で行うのは困難です。そのような場合に、成年後見制度を利用すれば後見人の援助を受けることができます。

成年後見制度は「任意後見制度」と「法定後見制度」に分けられます。任意後見制度では、判断力が不十分になる前に本人が後見人を選任し、予め任意後見契約を結ぶことになります。その後、本人の判断力が不十分になったタイミングで効力が発生します。

一方の法定後見制度では、本人の判断能力が十分ではなくなった際、家庭裁判所が後見人を選任します。家庭裁判所の申立後、審判が確定したタイミングで効力が発生します。

これらの「成年後見制度」を利用することで、後見人が身元保証人に求められる役割を部分的に担うことができるため、結果として身元引受人の提示が不要になる可能性があります。

民間の業者が提供する「身元保証サービス」を利用する

身元保証人を頼む人がいない場合は、民間の業者が提供している「身元保証サービス」を利用するという方法もあります。

サービス内容は提供している事業者によってもさまざまですが、入院・手術・介護施設入所時などの身元保証を始め、ご遺体の引き取りや亡くなった後の事務手続きなどを含めて任せられる場合もあります。ただし、サービスの利用料には注意が必要です。

中には料金設定がわかりづらく、初期費用は安くても結果的に高額になるケースもあります。民間の身元保証サービスを利用する際は、サービス内容を含め、利用料やオプション費用についてもよく確認した上で慎重に検討しましょう。

身元保証人を親族や知人に依頼する場合のデメリット

ここでは、身元保証人を親族や知人に依頼する場合のデメリットについてご紹介していきます。

負担をかける可能性があるため依頼しにくい

これまでご紹介してきた通り、もしもの際の金銭的な負担や手間など、身元保証人にはさまざまな責任が課せられます。そのため、余程近しい関係でなければ、身元保証人を依頼しにくいという現状があります。近しい関係であったとしても「迷惑をかけたくない」という理由から依頼を躊躇うケースも多くあります。

遠方に住んでいる、高齢であるなどの理由で身元保証人として認められない

身元保証人を引き受けてくれる人が見つかったとしても、遠方に住んでいる、高齢であるなどの理由から保証人として認められないケースもあります。特に入院・治療費などの「連帯保証人」を兼ねている場合は、支払い能力がないために認めてもらえないことがあります。

民間の身元保証サービスを利用する場合のデメリット

次に、民間の身元保証サービスを利用する場合のデメリットについてもご紹介していきます。

料金が高い、料金設定がわかりにくい

提供している業者によって、身元保証サービスの内容や料金設定はさまざまです。初期費用、サービス利用料以外に、月会費、更新料などがかかる場合もあるので注意が必要です。

また、オプション料金が設定されている場合あるので、提示された料金は「どの範囲のサービスに適応されるものなのか」について、よく確認してから利用しましょう。

法人の継続性・透明性に不安がある

民間の業者の場合、少なからず倒産などのリスクが考えられます。契約後、いざサービスを利用しようと思った時に、会社自体が無くなっているという可能性もあります。民間の身元保証サービスを利用する際は、サービス内容だけでなく、法人の設立者、資本金、設立の経緯、事業理念、目的などの企業情報までしっかりと確認し、信頼できる会社かどうか冷静に判断する必要があります。

また、弁護士、司法書士、税理士などと提携していると謳っている場合、具体的な連携先などの記載があるかどうかも確認しておきましょう。

まとめ

近年では、核家族化や未婚率の上昇、高齢者の増加などに伴い、家族のあり方も大きく変化しつつあります。また、身寄りのない一人暮らしのお年寄りも今後ますます増えていくと予想されています。

入院や手術のリスクは、歳を重ねるにつれて高まります。重要なのは、いざという場面で慌てないためにも、事前に準備を整えておくことです。まずは信頼できるかかりつけ医を見つけ、加入している医療保険などがあればしっかりと内容を再確認しておきましょう。また、入院や手術時の「身元保証人」についての知識も 合わせて頭に入れておくと安心です。

小野 聰司

記事監修者

小野税理士事務所代表の小野 聰司。
平成21年の12月に小野税理士事務所を開設し、多くのお客様のサポートをしている。